こんにちは、品川です。
学生さんが自分の研究の進め方に悩んでいるのを最近(通年)よく見ます。例えば、何をしたら新規性が出るのかとか、指導教員との研究議論や進捗報告のコミュニケーションがうまくいかないといったことです。 こういうところで苦しんだり悩むようになるのは成長の証でもあると思っていて、「ああ~~成長しているんじゃ~~もっと成長した姿を見せてくれ~~」と嬉しくなってしまいますが、具体的な行動としてどのような選択肢をとれば改善できるのかが頭にないと、ただ悩んだだけで何も解決しない可能性もあります。私もできた学生ではなかったので、学生時代ずいぶん四苦八苦していたのですが、そんな中で、私が学生時代に読んでいたor読みたかった書籍で特にためになった本を5冊紹介したいと思います。こういう方法もあるんだということを知ることで、この記事を読まれた学生さんの気持ちが少しでも楽になれば幸いです。
新規性や研究ストーリー構築の方法について
研究の育て方: ゴールとプロセスの「見える化」
研究を一から組み立てていくためのハウツー本です。良い研究というのはFINER: Feasible(実現可能性), Interesting(面白さ・意義), Novel(新規性), Ethical(倫理性), Relevant(妥当性)の5つの要素を満たしているという話に始まって、新規性には7類型に分けられると紹介しています。著者は医学系の方なので、情報系では評価されにくい場合もあるかと思いますが、新規性にも色々種類があるんだな、研究っていうものは思ってたよりもっと広いんだなということに気づけて、私は気持ちが楽になりました。研究プロセスのロードマップについても含蓄が深かったので、研究のテーマ決めやネタだしに苦労してる方におススメです。
研究の軸をブラさないために研究計画を書く方法、指導教員への研究の進捗報告の方法
成果を生み出すテクニカルライティング
研究を進めていて「あれ?私は何を明らかにしたかったんだっけ?」という経験がある方も多いのではないでしょうか?私も経験がしこたまあります。そんな時に、言語化による思考の整理の重要さをうたって、研究を「背景、課題、手段、結果」のマトリックスに分けて、それぞれの要素を対応付けて言語化することを勧めている本です。きちんと「対応付ける」というのがポイントで、これをきちんと守って整理すると、自分の中でも何がしたいかが分かりやすくできるようになりました。これは指導教員と研究の議論をする時もミスコミュニケーションを減らすのに役立ちました。このスキルは社会人になってからも役立つので、誰にでもおススメの一冊です。
博士号のとり方[第6版]―学生と指導教員のための実践ハンドブック:研究生活の過ごし方、指導教員や周りとのコミュニケーションの取り方
研究の進め方・研究生活のコツについて書かれた本です。博士課程の学生さんや教員を対象にした修士課程の学生さんにも役に立つ本だと思います。私は特に7章の「指導教員との付き合い方」を読んで、感銘を受けました。学生の心構えとして、指導教員から良いアドバイスをもらうための方法や、指導教員を学生である自分に合わせて教育する必要性について論じています。「教育」という言葉は若干語弊があって、正確には指導教員にちゃんと判断材料になる情報(こういう論文がある・こういう結果が出た・自分はこう考えている・自分はこういう指導が欲しい)を提供して、指導教員を自分に合わせてカスタマイズするつもりで指導教員との議論に臨めってことですね。最初は指導教員の方が知識も経験も上だからといって、どのように研究を進める気でいるか自分で考えずにいると不幸が起きがちです。指導教員を教育するという論点は他の本ではあまりお目にかかれないと思うので、ぜひ読んでいただきたい推しポイントです。
研究の進め方
独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則
CMUの金出武雄先生の著書です。ご自身の経験を交えて自説を展開した本なので、人を選ぶ本かもしれないのですが、研究を進める上での大事なエッセンスが詰まっている良書だと思います。私はこの本から、シンプルに素直に考えることが重要であること、問題をどのような切り口で切るかというセンスを養うことが重要であること、考え続けられることが一種の長所であること、アイデアは信頼できる相手にどんどん話してこそ練り上げられるものであること、などを学びました。現在の研究スタイルに多大な影響を与えてくれた本です。
妄想する頭 思考する手
東大の暦本先生の著書です。まず本に明示的には書いてない前置きとして紹介しておきたいのですが、研究の進め方は大きく二つ、「トップダウン型(リサーチクエスチョン型)」の研究と「ボトムアップ型」の研究があるといわれています。トップダウン型の研究というのは、明らかにしたい仮説があり、何をすればそれが明らかになるのかを逆算して進めていく研究です。対してボトムアップ型の研究は、先行研究をベースとしてその課題を見出し、解決するような研究や、既存のものを組合わせて何かやろうとする研究(問題よりも解決方法が先に決まっている研究)を指すものだと、私は解釈しています。一般に、研究ではトップダウン型の研究が好まれ、研究指導でも「トップダウン的に考えよう」という指導が入ることが多いと思います(「トップダウン至高教」と私は呼んでいます)。なぜかというと、ボトムアップ型の研究は、先行研究が課題としていたものの、大して重要ではない研究を解いてしまう恐れや、研究に一貫性が無くなりやすいという危惧があるからです*1。しかし、トップダウンに考えるというのは知識や経験が必要で、研究を始めたばかりの学生さんには難しいものがあります。
暦本先生のこの本では、トップダウンな考え方をベースとして、ボトムアップな考え方も時には柔軟に研究に取り入れるのも大事ということを説いている、と私は解釈しています。
通常の研究プロセスでは、まず最初に研究の問い(課題・仮説)を設定します(Claimと呼びます)。これを設定してから解決法を考えるのがトップダウンに考えるということですが、この本では、実際には解決方法がClaimよりも先に来る場合もあるという点に言及しています。これは(先ほど私が述べた)ボトムアップな考え方です。「解決方法が課題に先行するのは良くない」とされるのが通説*2ですが、この本では解決方法のアイデアが最も活きる課題を考えてみて、時には元の課題にこだわらずにピボットして研究を成立させるのも大事なことだという主張がなされています。他にも重要な課題、もっと面白い課題はあるわけで、それが解決できるのも重要だということです。
他にも以下のようなことへの言及があります。
- 良さそうなアイデアを思いついたら、うまくいくか考える前にすぐ手を動かしてみよう(GANのストーリーが例に挙がっています。これもボトムアップ的な考え方だと私は思います)。
- 何が出来たら面白いのか(発想の斬新さ)と技術的な実現可能性の難しさをそれぞれ天使度と悪魔度と表現していて、このバランスが重要という話があります(素人発想、玄人実行に通じる話です)
- 主張(Claim)の言語化についての方法論(Claimは一言で言えるか、論文はまずアウトラインを書いて都度修正するなど)についても載っています(成果を生み出すテクニカルライティングに通じる話です)
この本は私の学生時代に読むことはできなかったのですが、本当に早く知りたかったです。ちなみに、この本の前身として、暦本先生が関連する講義動画をYouTubeにアップしてくださっています。一般公開されてるのでぜひご覧いただけたらと思います。
正直私も、この動画を観るまでに、長く「トップダウン至高教」の呪いに侵されていて、ボトムアップに考えて気軽に手を動かすことができなくなっていました。実際には、トップダウンな考え方とボトムアップな考え方は相補的な関係にあって、ボトムアップな考え方で手を動かすことがトップダウンに考える上での課題設定の修正を行うのに役に立つことがあると学びました。例えば、研究テーマをより明確化するために、先行研究で公開されているコードをいじって遊んでみると、論文だけでは見えなかった問題が明らかになることがあります。これが典型例といえると思います。しかしながら、ボトムアップな考え方だけで研究するのは研究が迷子になってしまう恐れがあるので、暦本先生も「何がこの研究のClaimになるのか考えよう」ということを繰り返し強調されています。
以上です。研究で悩んだり苦しんだりされてる学生さんにとって、状況を打開するヒントになれば幸いです。