自己紹介とメタ視点の研究効率化Tips(研究生活のデザイン)について

こんにちは、品川です。
本記事は研究コミュニティ cvpaper.challenge 〜CV分野の今を映し,トレンドを創り出す〜 Advent Calendar 2022の2日目の記事です。

adventar.org

自己紹介

はじめての方へ向けて自己紹介です。品川政太朗と申します。奈良先端大で助教をしています。 大好物はVision and Languageと対話システムです。学生時代は自然言語の対話による画像編集について研究をしていました。今も学生さんと一緒に研究を進めています。

Vision and Languageも対話システムも、近年のGPT-3をはじめとした大規模言語モデルの登場に端を発して大きな盛り上がりを見せている研究分野で、ご存じの方も多いかもしれません。 私は特に、これらの分野の両方にまたがったシステムに興味があります。 Vision and Languageという分野は、画像をはじめとする視覚情報と、自然言語のテキストで表現される言語情報をいかに紐づけて課題を解決するかに関心がある研究分野です。これができるようになると、画像中の情報をテキストで表現したり、逆にテキストを画像で表現したりといったモダリティ間の変換や、画像を理解する手段として言語情報を使う、言語を理解する手段として画像情報を使うといったことが可能になります。 私が特に面白いと思っているのが、画像と言語が一対一対応しないという点です。画像を完全に説明できる説明文はなく、同じテキストでも複数の画像が説明文として適するという場合が存在します。 加えて、画像情報も言語情報も多様性があり、個人や大小の様々なコミュニティによって、画像とテキストがどのように紐づくか・紐づくべきかは異なると考えられます。たとえば、例の和菓子を御座候(ござそうろう)と呼ぶコミュニティで「回転焼き」や「大判焼き」などと呼ぶとユーザから不興を買うと容易に想像できると思います。 このような問題を解決するために、コミュニティに根差してユーザに利用してもらいながらユーザやコミュニティに逐次的に適応する仕組みというのが必要だと考えています。 すなわち、人から指示を受けた機械が、必要に応じて自分から人に確認をしたり、新たに情報を求めたりといった対話のやりとりを通して人と意図を擦り合わせ、人の指示の意味と実世界の意味を結び付ける方法論についての研究が私の研究動機です。 詳しくは、12/17(土)のLanguage and Robotics研究会(zoomにて開催、参加無料)でも話すので、ご興味ある方はぜひいらしてください。

langrobo.connpass.com

私が過去に発表した資料などはこちらから見れますので、ご興味ある方は参考にしていただければ幸いです。

sites.google.com

speakerdeck.com

メタ視点の研究効率化Tipsとは?

さて、早速本記事の本題に入りたいと思います。「メタ視点の研究効率化Tips」とは、「研究効率化Tipsを実践するためのTips」くらいのニュアンスです。 研究効率化Tipsと言うと、新しい便利なツールを使う方法を思い浮かべると思いますが、研究活動は社会的な営みでもあるので、自分をコントロールしたり、他人と協調したりといった要素も重要です(が、この観点は研究室でもわざわざ指導されることがない場合が多いと思います) メタ視点の研究効率化Tipsでは、このような社会的な営みの中での研究生活を充実させることで、研究を順調に進めながら研究生活を楽しめるようになるコツをいくつかお伝えできればと思います。主に学生さんを想定して、研究生活というよりも研究室生活に焦点を当てます。

研究室生活の概要を知って目標を立てる

研究室生活を充実させるためには、まず「研究室生活ってどんな感じで進むの?」という点を理解して、研究室生活を自分の人生に最大限活かす方法について考えるのが肝要です。

①知っておこう:研究室教育は実践の場

研究室教育というのはOn-the-Job Training (OJT)が中心であり、研究指導も研究室生活指導も、最初に体系的なレクチャーを受けられないまま、実践を通して学ぶことになる研究室も多いです(※筆者の聞く限りでは)。 研究室が提供してくれるのは主に、研究する場、研究する人が集まる場や機会、要所要所でアドバイスをくれる教員という存在であり、研究活動がどのようなゲームなのか理解するには自分から積極的に情報を収集する必要があります。

参考:2020.06.01 M1勉強会 論文の読み方・書き方・研究室の過ごし方 P.50

speakerdeck.com

研究というゲームの説明は『卒論・修論研究の攻略本』という本で分かりやすく説明されているので、ぜひ購入して読んでみると良いと思います。

www.morikita.co.jp

研究に対する心構えをより詳しく知るには、以下の本が参考になります。ぜひ調べてみてください。

  • 『妄想する頭 思考する手―想像を超えるアイデアのつくり方』
  • 『独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則』

②知っておこう:研究室生活は転用可能な技術(transferable skills)の塊

研究というプロセスはあらゆる問題を解決するのに汎用的に当てはめることができます。ゆえに大学では学生の問題解決能力を育むために研究というコンテンツを用意しているわけです。研究を一通りこなすのに必要なスキルは様々であり、多くのスキルは他の職種にも転用可能です。将来自分がなりたい職種が研究職でない方でも、どうせ修了して学位を取得するために必要ならば、就職時にスタートダッシュが切れるように研究室生活の中でスキルを鍛えておくか、と思っておくと身が入るかもしれません。

参考:2020.06.01 M1勉強会 論文の読み方・書き方・研究室の過ごし方 P.51

https://files.speakerdeck.com/presentations/f7601b20488a42ba8b94dd5e9d1b26b7/slide_50.jpg プロジェクト炎上について補足*1

参考:2020.06.01 M1勉強会 論文の読み方・書き方・研究室の過ごし方 P.52

https://files.speakerdeck.com/presentations/f7601b20488a42ba8b94dd5e9d1b26b7/slide_51.jpg

③実は裏テーマとして「自分をコントロールする技術の研究」が重要だったりする

研究テーマというのは個々人の能力に応じて様々なテーマ設定が可能なため、実は学生時代の研究室生活において鬼門になるのは個人の数学的素養やプログラミングスキルなどよりも、頑健な研究室生活を送れるかどうかにある、と私は考えています。「頑健な研究室生活」というのは、たとえば研究がうまくいかなかったりショックな出来事があって肉体的・精神的に落ち込んでも大きく崩れない、崩れてもすぐ立て直せる研究室生活を指します。

研究室生活(研究生活)というのはいやらしいもので、凹む機会や体調を崩す機会が日常的にやってくる世界です。 研究がなかなかうまく進まなかったり、自分のやっている研究が他の研究機関から論文として発表されたり、教員からきついコメントをもらったり、様々です。 普通の感覚であれば失敗なんてなるべくしたくないと思いますが、研究室生活では失敗を繰り返しながら成功に近づいていくことになります。 失敗するごとに成功に近づいていると喜ぶのが研究者と呼ばれる人々で、研究室生活を始めた学生さんの中にはカルチャーショックを受けてしまう人もいるかもしれません。

加えていやらしいのは、研究室では研究指導はしても研究室生活指導はあまりしない(忙しすぎてできない?)という点があります。 研究室によってはコアタイムを設けることで学生さんの研究室生活にある程度の制約を設けている場合もありますが、万人に対して同じ施策が有効とはならないので一長一短です。 教員も求められれば研究生活についてのアドバイスはできるものの、究極的には自分に適合する研究室生活は自分で見出していく必要があり、この必要性にいち早く気づけると順調な研究室生活を送れる可能性が高まります。 そう、言うなれば、研究室生活の裏には外に出すことはない裏研究テーマ「自分をコントロールする技術」があると考えると良いかもしれません。 自分をコントロールする技術はこの先研究職になっても他の職種に就いても応用が利く転用可能な技術(transferable skills)として非常に重要なので、そんな意識まるでなかったよ、という方はぜひ意識されると良いかと思います。

裏研究テーマの実践:相対化で自分の強みと弱みを見つける

研究というプロセスはあらゆる問題を解決するのに汎用的に当てはめることができます(ゆえに大学でも教育の一環として学生に研究をさせるわけです)。 もちろん裏研究テーマ「自分をコントロールする技術」を進める方法も、通常の研究と同じように進めることができます。少々異なるのは、自分のために行うことなので、論文として発表する必要はないという点ですね。

さて、研究のプロセスは、調査→仮説と研究計画の立案→仮説の検証→結果の考察に分かれます。「自分をコントロールする技術」について研究する際の調査の秘訣は、相対化です。 相対化とは、他者と比較するということです。え、「自分に適合する研究室生活は自分で見出していく」んじゃないのかよ、と思う方もいるかもしれませんが、自分の中に絶対的な指標を持ち込むのは大変なので、他者と比べて自分が何に興味を持っていて、何を困難に感じずにできるかを見出せると仮説を立てやすいわけです。

研究室には先輩や同期、後輩がいたり、他研究室と交流する機会があれば、雑談の中から何が得意か聞き出したり、進捗報告や研究発表から何が自分と違うのかを観察してみると良いと思います。

私の場合は、「他の学生よりも興味の範囲が広いなあ(広すぎるなあ)」「サーベイが苦にならない(むしろサーベイしすぎる)っぽい」という傾向があると感じていました。これらはよく「勉強好きだけど研究できない人」を揶揄する表現でして、私も自分でそういう面がある点は自覚していて、自分は研究向いてないのでは?、と考えることもありました。 しかし、良い面もあります。たとえば、コンピュータビジョンや自然言語処理、ロボティクスなど様々なコミュニティとつながり、様々な視点から研究を考えることができる点です。

研究という世界は思ったよりもずっと懐が深く、ある面での弱みは別の面だと強みになり得ると思います。 そう思ったきっかけは、自分の興味が広すぎることをボスに相談してみたときでした。ボス曰く「色々な領域に興味を持てるという資質は武器になる。学生の時にはあまり役に立たないかもしれないが、PIになった時にその資質が生きてくる」とのことでした。 このできごとからの学びは、資質・傾向の良し悪しを短期的に判断するのではなく、長期的な視点で活かすには自分を世界の中にどう位置づけていけば良いかを考えていけばいいのだ、ということです。 ある資質や傾向が今は不利でも、状況が変われば、捉え方が変われば、その資質や傾向を活かして強みにできる可能性があるはずです。「自分をコントロールする技術」を研究することは、これらの可能性を見つけていくことにもつながります。

性格診断やストレングスファインダーも役に立つ

自分の傾向を把握する方法として、16Personalitiesのような性格診断やストレングスファインダーも役に立ちます。ぜひ一度やっておくと良いです。

ちなみに私の16PersonalitiesはENFP-Tで、広報運動家です。傾向は好奇心・直感が先に立ち、衝動的。注意点は飽き性、手を広げすぎて収集つかなくなりがちなこと。世が世なら海賊王を目指していそうなアレです。

ストレングスファインダーでは5つの特徴的な資質を見ることができます。私の場合は以下の5つでした。

  • 収集心:知りたがり屋の傾向。
  • 内省:考えることが好きな傾向。確かに、とりわけ思考が自分の内面に向かうことが多いので、人の話を集中して聞くのは苦手な面があります。
  • 学習欲:学ぶことが好きで、結果より学ぶプロセス重視な傾向。
  • 回復志向:問題を解決することが好きな傾向。確かに、自分が成功することよりも、困ってる他者を助けて喜んでもらえることの方が好きです。
  • ポジティブ:基本的に楽天的で、どんな状況にもポジティブな面を探そうとする傾向。

これらの傾向を参考にしながら、自分にはどういう研究スタイルや研究生活が合うのか、仮説を立てていくと良いと思います。

方法論の調査

自分をコントロールする技術を研究する上で、先人が残している方法論は検証候補としてとても参考になります。 常日頃から情報を収集してメモしておくと良いでしょう。 たとえば、Web上で見れる資料だと以下のような資料があります。

www.200kounen-training.com

  • 楽しい研究のために今からできること 〜新しく研究を始める皆さんへ〜

www.slideshare.net

www.slideshare.net

  • cvpaper.challenge 研究効率化 Tips v2

www.slideshare.net

  • 2020.06.01 M1勉強会 論文の読み方・書き方・研究室の過ごし方(再掲)

speakerdeck.com

実は、漫画家の方々が公開してくださっているTipsも研究者を目指す我々に大変参考になります。必要なメンタリティとかかなり近いです。たとえば、大塚志郎先生をご覧になってみると良いと思います。

twitter.com

「from:shiro_otsuka 漫画家志望さんへ」でtwitter検索してみましょう。

自分自身の身体的・精神的体調管理について、予防やもしもの時(体調を崩したり落ち込んだりした時)の対処を中心に調べると良いと思います(研究の効率的な進め方にも関わってくるところです)

  • 体調管理、スケジュール管理とか
  • 心構え、考え方とか

仮説を立てて検証する

良さそうな方法があれば、早速実践してみましょう。 これまでの経験や、性格診断やストレングスファインダーを利用して得た自分の傾向に照らし合わせて、できそうなものから始めても良いと思います。 検証期間は、設けられるなら設けた方が良いと思いますが、無理に用意する必要は無いと思います。 (仮説を立てて検証する方法や期間といったことも、自分に合った方法を見出していくつもりでいると良いと思います。

私の場合は、私は衝動的かつ飽き性な面があるので、とりあえず試して、途中でやらなくなって自然消滅することが多いです。 やらなくなったことに気づいた時が肝心です。「あ~~~なんて私はだめなんだ」と思ってたらそこで終了になってしまうので、「何が原因でダメだったんだろう・・・?」と考察を始めます。たとえば、スケジュールに週に2時間強化学習の勉強をする予定を立てて実践した時に、うまくいってなければ、「その時は別の仕事があった」「疲れて寝てしまった」とかが原因として挙げられるわけです。

ここで立てた予定を止めるという選択肢もありますが、どうしてもやりたいことならば別の方法を考えます。研究で言う提案手法です。 たとえば、「「強化学習の勉強をする」というのが具体的でなく、すぐに行動に移る気が起きなかったので、ページ数を指定してやってみるようにしよう」とか、「一人で行うのは飽き性の私には向かないから、他の人を誘って一緒に勉強会を行って半強制的にでも読む時間を作ろう」といった提案が考えられます。

あまりおススメしないのは、何も改善案を立てずにリトライして同じことを繰り返すことです。少しの工夫で良いので、失敗したら改善案を立てて繰り返していきましょう。改善案が思いつかなければうまくやっていそうな人に聞いてみるのも一つの手です。そのためにも、コミュニティのつながりは広く持っておくと良いと思います。cvpaper.challengeもぜひ選択肢に入れていただけると幸いです。

xpaperchallenge.org

*1:プロジェクト炎上は、自分の研究プロジェクトでも研究室のプロジェクトでも良いですが、締切近いのに間に合いそうになくてヤバイ!くらいの広めの意味です。目標を変更したり、アプローチを変えたり、対応力が求められます